子の日の乾式研磨技術_Nenohi Record Vol_9

子の日では、長期にわたり研究・開発した鋼材のみを採用しています。
使用する鋼材の性質と特性をよく理解した上で性能を最大限に引き出すことができる製作方法(レシピ)を確立するためです。
今回のNenohi Recordでは、焼入れした鋼材を格的な包丁な形に削っていく荒削りを「乾式」研磨で行うことにスポットを当てて行きます。

過去に子の日でも、上記の写真のように一般的な水砥研磨(大型円形水研機)を3機導入しておりましたが、現在は更に包丁のクオリティを高めるために乾式研磨を採用することに至りました。
これから乾式研磨をなぜ採用したのか、またその経緯をご説明いたします。

【荒削りとは】

荒削りは前述でもご紹介した通り、焼入れした鋼材を0.1mm単位で本格的な包丁の形まで削っていく工程のことです。子の日ではこの荒削りの時点で片刃の場合は平のスキ、裏のスキ(片刃の構造の解説はこちら)を作ります。
また、刃元から切っ先にかけて包丁の厚さを薄くする「絞り」も自社既定の比率になるように1本1本厚さを測りながら作ります。
荒削り終了の時点で、後の工程の削り代を考慮し、完成の+0.2mm程の厚さまで削っています。
荒削りの段階で形の悪い包丁は、仕上げていく過程で更に良くすることは困難です。
このように通常であれば準備段階とも言えるような工程でも突き詰めた精度を追い求めることで、最終的に性能面でも美しさでも最高峰の包丁が仕上がるのです。

【乾式研磨とは】

本格的に乾式研磨の話に移りましょう。
乾式研磨とは包丁を研磨していく工程の中で、名前の通り水をかけずに乾いた状態の砥石を使用して研磨する方法です。一般的な包丁の研磨には「水砥」を用いた、湿式研磨が導入されています。

【子の日が乾式研磨を採用した理由と経緯】

子の日が主に採用している「ソリッド(全鋼、本焼)」の包丁は、特に高精度の加工が求められる包丁です。正確に一から加工された包丁は美しく、多くの方が思っている以上に「切れ味」に好影響を与えます。繊細で加工の難しい鋼材を精密に削っていくことを極めるため、長年試行錯誤を続けた結果生まれたのが子の日独自の「乾式研磨」です。前述の通り、子の日でもかつて「水砥」による研磨を導入しておりました。そもそも大前提として砥石を真円のまま使い続けることは研ぎの技術の一つですが、水砥の場合、使っているうちに砥石の真円にずれが生じ、「振動」が起きてしまいます。
どのように改善を試みても、水砥では一定以上の振動が生じてしまいます。加えて、円形の砥石を繰り返し使用していく過程で、当然砥石が徐々に小さくなり、直径が減少し、変形していく砥石では高精度の「平スキ」「裏スキ」を作ることが非常に困難でした。

上記の理由から子の日は、この「振動が生じ」「砥石の径が変わる」水砥では追い求める精度を出すことは不可能だと判断し、乾式研磨への移行を決断しました。その後、乾式に移行するにつれて、「治具(固定装置)」の工夫によって包丁加工角度の再現性を上げたり、「裏スキ」「平スキ」と同径の加工機械を開発したりと様々な手法と手段を組み合わせ取り入れました。水砥では不可能であったことを可能にしたことで、荒削りの方法を習得した職人であれば、同じ品質に仕上げることが出来るようになりました。

【乾式研磨の懸念点を克服】

写真のように火花を散らしたり、湿式のように水で冷ましながら削っていないことから、「刃に悪影響はないのか」、「包丁(鋼材)が痛まないのか」というお声をいただくことがあります。
ご意見の通り、刃に過剰な「熱」を与えることは包丁の性能を落としてしまう要因の一つで、一般的なグラインダー等で加工することはもちろん私どもも推奨いたしません。
ただし、子の日はこの加工時の「熱」については研究を繰り返し、誰よりも熟知しており、異常なほどシビアに捉え、考慮しております。様々な試行錯誤の結果、特別なセラミック研磨材を使った砥石で、鋼材に摩擦熱が刃に伝わりにくい環境を実現しました。
イメージとしては掴んで「切り飛ばす」ようにご想像いただければと思います。火花を散らしながら鋼材を切り飛ばすことで、素早く精密な研磨に加え、かえって包丁に熱を持たせない加工を行うことができるのです。また、研削加工を職人が「素手」で行うため、包丁の温度を肌で感じ把握することで、削る際の熱による刃への悪影響を完全に防ぐことができます。子の日独自の「乾式研磨」では、刃の性能に悪影響が出ないことをお約束いたします。

【乾式研磨を実現するために】

精度の高い研磨を実現するために、子の日は設備投資を惜しみませんでした。
前項でもお話したように、研磨に使用する特別研磨材は、全てにおいて研磨性に特化した特別なものを採用しています。良質な研磨材は加工の正確性はもちろん、加工速度も速いため、高精度で速い研磨が叶えられます。

さらに、水砥の弱点である「振動」「砥石の径が変わる」という点を克服するために、「裏スキ」「平スキ」の径を削るためだけの専用工作機を社長の澤田が独自で設計しました。この機械の導入により、砥石の大きさの変化によるスキの深さのムラを解消し、均一な深さで歪みのないスキ作りを実現しました。

以前のNenohi Recordでも解説した通り、均一なスキ(凹み)を作ることで、見た目の美しさだけではなく、切れ味の良さ(刃が食材にスムーズに入る)、使い手の使いやすさ(食材がひっかかりなく切れる)、メンテナンスのしやすさ(砥石が均一に当たるため簡単に研げる)にも繋がります。このように包丁を製造する設備までもこだわり抜くのが子の日の包丁造りなのです。


今回は刃の加工工程に伴う機械にもスポットを当てましたが、包丁製作を極めようとすると、ほぼ全ての作業を職人の手作業によって行う必要があります。
手作業といえど、正確に回る「研削機械」、毎回同じ角度を再現できる「治具」、振動を抑える「治具」などの工夫された道具を駆使することで、その職人の手仕事はもう一段上の領域の手仕事になり得ます。

包丁製造において「職人個々の技術力」はもちろん欠かせませんが、職人が使う「道具」や「機械」、そして「製造方法」といったいくつもの要素が重なり、一つの包丁が出来上がります。子の日では包丁造りに関連する要素全てに妥協をせず、こだわりを突き詰めた包丁製造を行っています。

包丁という長い歴史の中で受け継がれてきた伝統を礎に、さらに技術を積み上げ、子の日の包丁をお使いいただくお客様へ「良いものを届ける」ための挑戦を止めることはありません。